討論
議長(柳居俊学君)橋本尚理君。 〔橋本尚理君登壇〕(拍手) 橋本尚理君 自由民主党新生会の橋本尚理でございます。会派を代表して、意見書案第一号 緊急事態に対応できる国づくりに向けた建設的な議論を求める意見書案に賛成の立場で討論をさせていただきます。 意見書では、国におかれては、緊急事態に対応できる国づくりに向け、関係法規の見直し等による平時からの緊急時のルールの切替えや、その根拠規定となる憲法への緊急事態条項の新設等について、国会における建設的かつ広範な議論を行うとともに、広く国民的な議論を喚起する取組を進めるよう強く要望するとありますが、簡素に言えば、憲法に緊急事態条項を明記してください。つまり、憲法を改正してくださいとの要望であります。 そこで、武漢から発生した新型コロナウイルス感染症との闘いに世界中を巻き込み、いまだに終息の予測すらできていない中においても、我が国の憲法に緊急事態条項を明記することに反対をされている方々の疑問、そして、今行われたこの意見書への反対討論にお答えをしながら、討論を進めていきたいと思います。 そこでまず、緊急事態は本当に起こるのでしょうかという疑問です。 二万三千人の死者が予測される首都直下地震、三十二万三千人の死者が予測される南海トラフ大地震の発生は、三十年以内に七○%から八○%の確率で起こると予測されており、世界中に起こっている大規模テロが日本にだけは起こらないという保証は何もなく、さらに、先日、日本を射程距離とした発射実験に成功した北朝鮮が、核弾頭を搭載した長距離巡行ミサイルを、いつ日本に着弾させても何も不思議でないのが今の我が国を取り巻く状況であり、明日にでも、コロナ感染をはるかに超える緊急事態が起こる可能性があるのであります。 次に、ほかの国の憲法には緊急事態条項があるのですかの疑問ですが、憲法に緊急事態条項を持っているのが世界の常識であります。 一九九○年以降に制定された百三の憲法全てに、国家緊急事態条項が設けられておりますし、国連の人権規約にも、国民の生存を脅かす公の緊急事態の場合には、自由権──私権ですね、私権について、本規約の義務に違反する措置を取ることができると定められており、日本国憲法は世界から見たら非常識な憲法と言われているのであります。 次に、緊急事態には、今の法律で十分対応できるのではないですか、憲法に緊急事態条項を新設する理由があるのですかの疑問についてです。 これまで緊急事態が発生したときの多くは、その都度ごとの特別措置法で対応してきました。 今回のコロナ感染症を見てみますと、新型インフルエンザ特別措置法による対応となり、政府が緊急事態宣言を出してもお願いベースにしかならず、三回にも及ぶ緊急事態宣言では、お願いベースに多くの国民は慣れ、緊張感も薄れ、その効果はその都度ごとに減少してきました。 また、都会では、医療体制が逼迫、いや、崩壊すると言われましたが、これも、現在の法律では、知事は、医療機関にお願いベースでしかコロナ感染患者の受入れを要請することができず、医療機関はそれに応じる義務がないため、特に都会の医師会の協力が得られず、結果、コロナ病床不足や医師・看護師不足が発生し、医療体制の逼迫・崩壊となったのであります。 挙げ句の果てには、ワクチン接種者も足らなくなり、自衛隊の医官・看護官に出動要請をするという前代未聞の事態が起こりました。有事が起こったら一体どうするつもりだったんでしょうか。 さらに、緊急事態宣言等は政府が発出しますが、その後は都道府県対応となるため、国と自治体とが二重構造となり、一体感もなかなか取れませんでした。 また、ワクチン接種やコロナ感染患者の受入れでは、県境を越えられないというジレンマも経験いたしました。 日本の法制度では、安全保障上の有事には国が対応しますが、医療や自然災害においては、都道府県や市町村が対応するとなっております。 ましてや、自然災害や原発事故、イラク戦争への対応も全て特別措置法での対応でした。いざ何かが起こったときに、一体誰が責任を、どのように持って対応するのか、なかなか分かりづらいのであります。 今回のコロナ感染では、全国知事会も、国に対し、権限と責任の見直しや補償・罰則の法整備を繰り返し提言されましたが、政府は人権の制限を伴う法改正には憲法の議論が必要であると述べるにとどまりました。 我が国では、何かが起こらないと法律はつくらない。ましてや、特別措置法で対応するという歴史構造をいまだに持ち続けている平和ぼけ国家であると言わざるを得ないのであります。 今の法律には、緊急事態に対しては、安全保障上の自衛隊法と、自然災害に対する災害対策基本法しか基本法としてはありません。 大規模自然災害が発生すると、政府は、災害対策基本法に基づき災害緊急事態を布告でき、首相は、生活必需物資の配給、譲渡、引渡しの制限・禁止、必要物資の価格や役務その他の給付の対価の最高額の決定、金銭債務の支払いの延期、経済面にだけ限定されたこの三つの政令を出すことができるとなっております。 しかし、発出には、基本的に国会の承認が必要となっており、国民の命と生活を守るために可及的速やかな対応ができないばかりか、首相の権限はないに等しい基本法であります。 仮に、首都直下地震が起これば首都機能は停止いたします。どのようにして国会を召集し、国民の命と財産を守るための審議をされるのでしょうか、想像すらつきません。 緊急事態に対処できない国家は、遅かれ早かれ、崩壊を余儀なくされると言われていることからも、私たちは、いまだ続いているコロナ感染症との闘いや東日本大震災での教訓を生かさなければならないのであります。 いつ発生しても不思議ではない南海トラフ地震、首都直下地震、北朝鮮のミサイル攻撃、テロ、中国による領土侵略等には、今ある基本法、特措法では国民の命と生活を守ることができないことが明白である以上、一日でも早く憲法上に緊急事態条項を明記しなければならないのであります。 次に、憲法に緊急事態条項が明記されたら、国民の権利や自由が制限されませんか。再び戦争を起こすのではないですかの疑問についてであります。 ここで立ち塞がってくるのが、憲法の壁、人権の保障であります。 立憲民主党の枝野代表は、憲法を改正しなくても法律をつくれば何にでも対応できると言っておられますが、憲法に非常事態条項が規定されていないのに、一部の人に一時的にではあれ、人権に制限をかける法律をつくれるわけもありません。こんなことも御存じないんでしょうか。 東日本大震災時において、当時の菅政権は、国会開会中にもかかわらず、災害対策基本法で認められている災害緊急事態を布告されませんでした。 結果、被災地ではガソリンが不足し、パトカー・救急車ですら燃料不足となり、そのためにお亡くなりになられた方も少なくなかったのであります。 菅総理は、布告しなかった理由を、国民の権利義務を大きく規制する非常に強い措置であるためだと国会で答弁をされたことをもうお忘れなんでしょうか。 立憲民主党の綱領に、立憲主義を深める立場からの憲法議論を進めますとうたっているのでしたら、緊急事態発生に備え、国民の命と生活を守るために憲法改正議論を進めますとなぜ言えないのでしょうか、理解ができません。 憲法は、平常時だけではなく緊急時にも機能しなければなりません。国民の生命を守るのは当然ですが、立憲主義を守るためにも、憲法に緊急事態に対処する条項は必要不可欠なのであります。 憲法を一字一句変えたくないから法律をつくり対応すればよい、コロナに乗じて自民党が権力を強めようとしているなどと主張し、憲法改正議論を進めようともしない反対勢力の方々に申し上げさせていただきます。 憲法に規定がないものを法律でつくることのほうがもっと危険ですよ、そのような主張をする人々を非立憲主義者というのであります。 緊急事態が発生したとき、政府は、一部の国民の人権を守るために、多くの国民の命と生活を犠牲にするのか、多くの国民の命と生活を守るために、一部の国民の人権を一時的に犠牲にするのか、究極の選択に迫られます。 全ての私権を平時と変わらず保障すれば、被災した人々の生命や財産を損なうだけでなく、東日本大震災のときがそうでした、被害を拡大させて、さらに多くの人々の生命や財産を損なうことがあります。そこで、被害を最小限に食い止めるために、一部の国民の私権を一時的に制限することはあり得るのであります。 ナチス独裁政権を経験したドイツは、大戦後の憲法に、緊急事態の認定や命令発出の手続を詳細に定め、国民の代表である議会を関与させ、行使される権限の範囲や期間を限定するなど厳格な条件を憲法に定めました。二度と独裁者をつくらず、二度と戦争をしないためであります。 我が国の憲法に緊急事態に関する制度設計を厳格にした条項を明記すれば、首相がその権利を濫用し、全ての国民の権利を制限するという反対論は成り立たず、独裁者を生むことなく、他国からの侵略がない限り、二度と戦争は起こさない国になるのであります。 以上、政権を批判するだけの姿勢を貫かれ通しても、国民の命と生活は守れないことがよく御理解できたのではないかと思います。 議場の皆様も、県民の命と生活を守らなければならない県議会議員でしたら、県民の命と生活を守るこの意見書に全会派が賛成していただけるものと信じ、賛成討論を終わらせていただきます。(拍手) 議長(柳居俊学君)これをもって討論を終結いたします。